10万の針跡と、「再会」の約束。

2月。春の足音が少しずつ聞こえ始める中、僕の工房は、かつてないほどの静かな熱気に包まれています。
3月に開催する個展『革小物展』。
その準備を進めるなかで、僕は今、猛烈な「迷い」の中にいます。
会場のレイアウト、照明の角度、什器の高さ……。
正直に告白すると、配置を練りに練っては壊し、また一から考え直す、そんな日々の繰り返しです。
僕にとっての個展会場とは。
僕が革細工に出会ってから今日までの8年という時間とともに、100以上の型紙を没にし、10万回を超える針を通し積み上げてきた「Gypsy Leather Works」という世界の入り口。
扉を潜り抜けた瞬間、外の喧騒が消え、革の香りとスポットライトの陰影が、訪れた人の心を「旅」へと誘う。
そんな聖域を作ろうと、もがいています。
この産みの苦しみこそが、最高傑作を届けるための唯一の道だと信じて、最後の最後まで、今表現できるベストな形を模索していこうと思います。
映像と空間、五感を揺さぶるコラボレーション

今回の個展は、僕一人の力で完成するものでは決してありません。
まず、映像制作会社・虎徹さんとの共作。
先日、コンセプトムービーのショートバージョンを公開しました。
映像に収められているのは、煌びやかな完成品だけではありません。
革の裏側や淵を磨くときに出る鈍い音、刻印が打ち込まれるときの緊張感、そして一針ずつ丁寧に、しかし執拗に繰り返される手縫いのリズム。
技術は前提。その先にある感動を届けたい。
僕のこの想いを、虎徹さんは見事に「光と音」で結晶化してくれました。
会場で、この映像が放つパワーを肌で感じていただけると幸いです。
そしてさらに、空間を彩る「静寂」の演出。
今回は、鹿屋市で活動する、気鋭のドライフラワーショップGrafe(グラフ)さんとのコラボレーションが実現しました。
生命を終えてなお、形を変えて美しさを放ち続ける花々。
それは、動物の生きた証である「皮」を、持ち主と共に生きる「革」へと昇華させる僕の手仕事と、どこか深く響き合うように思います。
そんな空間の中、革とともに皆さんに楽しんでいただきたいのが、今回の個展のテーマにもなっている、『コーヒー』と『お菓子』の存在です。
嗅覚、味覚を優しく包む、Ngarageコーヒーさんとシカベイクさんの、美味しいコーヒーとお菓子。
ぜひ、コーヒー片手に、ゆっくりとご観覧いただけると幸いです。
「あの日」の約束。

今回の個展において、僕にはどうしても果たしたい約束があります。
昨年12月。
冷たい北風が吹くイベント会場で、私の拙いフライヤーを手に取ってくださった皆様。
「こんなバッグがあったらいいな」
「いつか、自分のための相棒が欲しい」
立ち話のなかで交わした何気ない言葉の一つひとつを、僕は今も鮮明に覚えています。
あの時、あの場所での出会いは、僕にとって一期一会の宝物でした。
だからこそ、あの日フライヤーを受け取ってくださった方には、特別な「相談枠」をご用意したいと思っています。
「あの日、イベントで話をしていた〇〇です」そう、お気軽にお声がけください。
今度はガレージの落ち着いた明かりの下で、ゆっくりと、形にしていきましょう。
「刻印」に込める、未来への共作アート

会場では、皆さんに参加していただく「刻印無料体験」を実施します。
これは単なるサービスではありません。
皆様に一文字ずつ、ご自身の手で1枚の革に刻んでいただく。その「鼓動」が刻まれた革を、僕は個展終了後、額装して大切に保管いたします。
完成した作品は、僕の宝物として工房に飾り、そして次回の個展でも展示し続けようと思っています。
「あの日、自分があの場所にいた証」。
いつかまた再会したときに、その刻印を眺めながら「あの日から、こんな道を歩んでるよ。」と語り合えるような、そんな関係を築いていけたらいいなと願っています。
受注「2027年以降」という重圧と、感謝

ここからは、非常に重要で、少し心苦しいお知らせをしなければなりません。
現在、Gypsy Leather Worksのオーダーは、昨年のイベントにてお話が進んでいる方を数え、極めてありがたいことに「2027年以降」まで埋まっております。
一針ずつ、すべての工程を僕一人の手で行っているため、一日に進める距離には限界があります。
次の一般オーダー再開は2026年8月を予定していましたが、これまでにご相談いただいた数を鑑み、再開時期を「2027年以降」へと変更させていただく決断をいたしました。
これを前向きに捉えるとすると、3月の個展が、より特別な意味を持つひと時になるのではないか。
この2日間は、僕が直接皆さんの目を見て、想いを聞き、共にデザインを練り上げるという、極めて貴重な機会となります。
しかし、ワンオペレーションですべてを行う以上、受注数にはどうしても物理的な上限を設けざるを得ません。
せっかくお越しいただいたのに、オーダーができなかったという悲しい思いをさせないために、今回は「セミオーダー抽選枠」、そしてもし抽選に外れてしまった方には、公式LINEを通じて「次回オーダー優先権」を発行させていただこうと考えています。
セミオーダーは、会場にあるS/M/Lのトートバッグやクラッチバッグをベースに、革の色、糸、金具、底鋲など、あなたの人生という旅にふさわしいカスタムを施すものです。
会場で手渡す「セミオーダーシート」を手に、じっくりとご自身と向き合う時間をお楽しみいただけると幸いです。
ご注意いただきたいことは、ひとつひとつ、大きな作品も小さな作品も、どれも真摯に向き合いたいため、納期は約2年ほど、見ていただける方のみご注文くださいますよう、よろしくお願い申し上げます。
旅の始まりは、ひとつのお菓子と一杯の珈琲から。

今回の個展、ガレージの扉は「半分だけ」開けておきます。
潜るようにして足を踏み入れるその場所は、外の世界とは切り離された、静かな空間。
車椅子でお越しのお客様にも安心してご来場いただけるよう、準備を進めています。
特等席でおもてなしをさせていただきますので、ぜひ、安心してご来場ください。
雨が降れば、雨音がBGMになる。
晴れれば、外のテラスで珈琲を楽しめる。
どんな空の下でも、最高の体験ができるよう準備を整えています。
旅の始まりは、ひとつのお菓子と、一杯の珈琲(Ngarageコーヒー、シカベイク)から。
8年の歳月が導き出した「狂おしいほどのこだわり」を。
3月14日、15日。
大崎町野方のガレージで、心よりお待ちしております。
Gypsy Leather Works 福田こうじ